時空間情報システム #13

AHPで自転車観光コースの総合評価を決める

田村一軌

佐賀大学経済学部

2026年7月3日

今日決めたいこと

前回までに、自転車観光コースの評価指標が決まりました。

  • 主観評価
    • テーマ性・物語性
    • スポット選定の独自性
    • ルートの変化・メリハリ
    • 訴求力(行きたくなるか)
  • 客観評価
    • 移動効率性
    • 移動負荷(累積獲得標高)
    • 安心感(修理店までの距離)
    • 利便性(最寄りコンビニの数)

問題: 単位も性質もバラバラな8つを、どうやって1つの総合点にする?

→ 「どれをどれくらい重視するか(重み)」を 数値化 する

なぜ「重み」が必要か

もし全部の評価指標の(算術)平均をとると…

  • 自転車観光コースを適切に評価できていると言い切れるだろうか?
  • 評価指標によって、自転車観光コースの評価とって重要なものとそうでないものがあるのでは?
  • 評価指標に「重み」をつけたいが、重みの置き方次第で、順位が変わる。
    • どう重みを決めたかを説明できる仕組みが必要。

→ そこで使うのが AHP(Analytic Hierarchy Process:階層分析法)

AHPは何のために作られたか

AHPはもともと、「専門家の主観的な判断」を、恣意的にではなく体系立てて数値に変換するために考案された手法(Saaty, 1980)。

  • 「効率性と魅力度、どちらが大事か」に絶対的な正解はない
  • でも、何となく・思いつきで重みを決めてしまうと、後から説明できない
  • 一対比較という手続きを踏めば、主観的な判断を、追跡可能な数値にできる

今回は「みなさんの集合知」を、AHPを使って数値化します。

AHPの基本発想

  • 「効率性・安全性・魅力度、それぞれ何%重要ですか?」と直接聞かれても、答えにくい
  • でも 2つを比べて「どちらがどれくらい重要か」 なら、直感的に答えやすい
  • この「2つずつの比較」を積み重ねて、最終的に全体の重みを計算する

これが AHP の中心的なアイデア = 一対比較(pairwise comparison)

今回の評価構造(階層)

総合スコア

効率性・負荷

安全性・利便性

魅力度

TSP比率

累積標高

修理店距離

コンビニ件数

テーマ性

独自性

ルートの変化

訴求力

今回みんなに決めてもらうのはここだけ

?

?

?

効率性・負荷

安全性・利便性

魅力度

3グループの間で、3回の一対比較をします。

一対比較の答え方(Saatyの9段階尺度)

各質問で、次の9つから1つ選びます。

選択肢 重みの目安
Aが極めて重要 9倍
Aがかなり重要 7倍
Aが重要 5倍
Aがやや重要 3倍
同じくらい重要 1倍
Bがやや重要〜Bが極めて重要 (Aと対称、Bの方が重要)

直感的な感覚を、そのまま数値(比率)に変換する尺度です。

回答から重みが決まるまで

  1. 全員がFormsで3問に回答する
  2. 全員の回答を 幾何平均 でまとめて、1つの「みんなの意見」にする
  3. まとめた比較結果から、3グループそれぞれの重み を計算する
  4. 重みの合計は必ず 100% になる

計算方法:正規化列和法1

(A・B・Cの3項目、一対比較の結果が下の表だったとする):

A B C
A 1 2 4
B 1/2 1 2
C 1/4 1/2 1
  1. 列ごとに合計する(A列: 1+0.5+0.25=1.75、B列: 3.5、C列: 7)
  2. 各セルを列の合計で割る(正規化)→ どの列も合計が1になる
  3. 行ごとに平均を取る → それがその項目の重み

計算方法:結果

正規化すると、実はどの列も同じ比率(57:29:14)に揃います。

A B C 行平均(重み)
A 0.571 0.571 0.571 57.1%
B 0.286 0.286 0.286 28.6%
C 0.143 0.143 0.143 14.3%

3列がぴったり同じ比率に揃うのは、この例が完全に矛盾のない回答だったからです。

(A:B=1:2、B:C=1:2、A:C=1:4=1:2×2 で辻褄が合っている)

整合性のチェック(CR)

一対比較には、ときどき 矛盾 が紛れ込みます。

例:「効率性>安全性」「安全性>魅力度」なのに「魅力度>効率性」

これでは3つの重みを一貫して決められません。

AHPには CR(整合度) という、回答全体の矛盾の大きさを測る指標があります。

  • CR ≤ 0.1 → 「まあ一貫している」と判断
  • CR > 0.1 → 回答全体に矛盾が大きい(見直しが必要)

CRは2段階でチェックする

今回の評価では、2つのレベルでCRを確認します。

  1. 個人のCR:1人ずつの3つの回答が、論理的に辻褄が合っているか
    • 例:「A=B」「A=C」と答えたのに「C≫B」と答えると矛盾 → 「要確認」フラグ
  2. 集約後のCR:全員の回答を幾何平均でまとめた「クラスの意見」全体が、辻褄が合っているか

個人のCRが多少荒れていても、全員分を平均すると矛盾が打ち消し合って、集約後のCRは低くなることがよくあります。

→ 個人のCRは「回答をやり直してもらうかどうか」の目安、 集約後のCRは「最終的な重みを採用してよいか」の目安、という役割分担です。

発表会当日(来週)の流れ

  1. Formsで3問に回答(1分程度)
  2. 回答をExcelに集約 → 個人のCR・集約後のCRをその場で確認
  3. 発表の内容から、各チームの魅力度を評価(Forms)
  4. 回答をExcelに集約 → トリム平均によって各チームの得点を計算
  5. 決まった重みを使って、4チームの総合スコアを計算
  6. どのコースが1位になるか、みんなで確認

では、来週の発表会に向けて、準備(スライド作成など)を進めてください。